はじめに
私たちもいずれ老いを迎えるように、わんちゃん・ねこちゃんも必ず年をとります。獣医領域では予防・治療の充実、治療の技術や医薬品の向上に伴い寿命が延びることに合わせて、わんちゃん・ねこちゃんの認知症の症例が多くなって来ています。「痴呆の症状は仕方ない」「年なんだから…」「脳の病気だから何もできない」と思われがちですが、一生の中でまさに今こそご家族の手助けや細かな気使いが必要な時期なのです。
わんちゃん・ねこちゃんが高齢になると、脳への血流量が減る、脳自体の機能が低下する、脳内に老廃物が溜まり、脳の働きを低下させる等のことにより、脳が委縮し認知症が発症します。
認知症の症状は「自分が思う通りに動けない」、「今までできていたことができなくなった」、「飼い主さんに自分の意思を伝えられない」等からくる多くの不安やストレスによって、増大していきます。逆に言えば、この部分こそ飼い主さんの手助けでストレス、不安を軽減し、「ちょっと不自由になったけど、ぼくには何でも理解してくれるパパやママがいるから大丈夫なんだな…。」って思ってもらえたら嬉しいですね。
今日は認知症によく見られる症状、兆候や年令、多発犬種、又、ご家族ができることをお伝えしようと思います。
わんちゃん・ねこちゃんの認知症について
1. 認知症の4つのサイン
a. 見当識障害 | ・自分の家の近所で迷うことがある。 |
・よく知っている場所でも迷うことがある。 | |
・親しい人や日頃の生活パターンがわからなくなる。 | |
・機敏さや警戒心が低下し、無目的な動きをする。 | |
・壁や宙をじっと見つめていることがある。 | |
b. 相互反応の変化 | ・家族を喜んで迎えなくなる。 |
・撫でたり抱き上げたりしても、喜ばない。 | |
・飼い主の関心をひこうとしなくなった。 | |
・家族や他の犬と遊ぶ時間が減った。 | |
・言葉で合図しても応えない。 | |
c. 睡眠あるいは行動の変化 | ・昼寝が増えたり、夜間眠らなくなる。 |
・夜間に家の中を徘徊する。 | |
・夜間に意味もなく吠える。 | |
d. 家庭でのしつけを忘れる | ・散歩に行くことをせがまなくなる。 |
・屋内での「粗相」の頻度が高くなる。 | |
・排尿・排便のコントロールができなくなる。 |
2. 発症年令
種 | 年齢 | 割合 |
---|---|---|
犬 | 11才 〜 12才 | 約28% |
15才 〜 16才 | 約68% | |
猫 | 11才 〜 14才 | 約30% |
15才以上 | 約50% |
上表の割合で1つ以上の認知低下の兆候を示す…と言われています。
3. 日本での認知機能不全症の発症状況
犬種 | 割合 |
---|---|
日本犬系Mix | 50% |
柴犬 | 34% |
認知障害の発症したわんちゃんのうち84%が日本犬。日本犬以外ではヨーキーが1番多い。
(Dr.内野 2005年資料)
4. ご家族がしてあげられること
〜わんちゃん・ねこちゃんに優しい環境にしよう〜
- トイレの数を増やしたり、排泄に出す回数を増やす。又、段差をなくして行きやすくするようにしてみる。
- 足元の滑り止め等を設置する。
- 家具の大移動は控える。
- 視力の弱くなってる子には、十分に声を掛け、こちらの気配を知らせる等して、急に触ったりせず、びっくりさせないようにしましょう。又、視力の低下に伴わず、体、特に顔周りを触られることを急に嫌がることがよく見られます。そんな時は、必要以上に触らないようにしてあげましょう。
- 一定方向に回ってるわんちゃんはエンドレスケージを用いたり、お風呂用マットを下に敷くなどして、怪我のない環境を作ってあげましょう。
- 散歩は健康のためだけでなく、心のリフレッシュにもなり、新しい刺激は脳の老化を防ぎます。歩くのが困難な場合でも、抱っこして連れ出したり、公園のベンチでゆっくりと時間を過ごすだけでもOKです。
- 若い頃わんちゃん・ねこちゃんがよくやっていたこと、楽しくしていたことを思い出してみて下さい。例えば、出窓でゆっくりと日向ぼっこをしていた子は、ジャンプすることが困難でそこに行けないかもしれませんね。こんな時はマットを敷いて居心地のいい場所を作り、そこへ抱っこして上げてあげるのもいいかもしれません。もちろん落ちないように見てあげたいのですが、体をなでなでしながらペットとの時間を楽しいものにしてあげられるのは飼い主さんならではの力だと思うのです。
5. ご家族だけで悩まないこと
昼夜が逆転したり、吠えが続くと飼い主さんの努力だけではどうにもならないこと、負担が大きいことは沢山あるはず。又、「うちの子は認知症なのかしら。」「何をしてあげたらいいのかな?」と思うときこそご相談下さい。薬物の利用やサプリメント等の補助療法、生活の工夫等のご提案やアドバイスでご家族の負担、わんちゃん・ねこちゃんの負担が減ると思います。
認知症は完治することはできませんが、症状の緩和、進行の遅延は可能です。1つでも症状に該当することがあれば、そこから環境の整備やサプリメント等を始めることでわんちゃん・ねこちゃんの質の高い生活が送れるはずです。今までたくさんの喜び、勇気、無償の愛を示してくれた家族に、まだまだしてあげられること…いっぱいです。
10才以上のわんちゃん・ねこちゃんの飼い主様
当院では、高齢なわんちゃん・ねこちゃんの認知症の発症状況及び、飼い主様とペットとの質の高い生活をサポートできるようアンケートを行っております。認知症は完治できませんが、その病気の理解と飼い主様のペットたちへの配慮、サプリメント等を用いることで進行を遅らせることが可能です。質問内容等についてお気軽にご質問下さい。
a. 見当識障害 | ・自分の家の近所で迷うことがある。 | Yes No |
・よく知っている場所でも迷うことがある。 | Yes No | |
・親しい人や日頃の生活パターンがわからなくなる。 | Yes No | |
・機敏さや警戒心が低下し、無目的な動きをする。 | Yes No | |
・壁や宙をじっと見つめていることがある。 | Yes No | |
b. 相互反応の変化 | ・家族を喜んで迎えなくなる。 | Yes No |
・撫でたり抱き上げたりしても、喜ばない。 | Yes No | |
・飼い主の関心をひこうとしなくなった。 | Yes No | |
・家族や他の犬と遊ぶ時間が減った。 | Yes No | |
・言葉で合図しても応えない。 | Yes No | |
c. 睡眠あるいは行動の変化 | ・昼寝が増えたり、夜間眠らなくなる。 | Yes No |
・夜間に家の中を徘徊する。 | Yes No | |
・夜間に意味もなく吠える。 | Yes No | |
d. 家庭でのしつけを忘れる | ・散歩に行くことをせがまなくなる。 | Yes No |
・屋内での「粗相」の頻度が高くなる。 | Yes No | |
・排尿・排便のコントロールができなくなる。 | Yes No |